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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
幸福に、幸福に、幸福に! ……でも私達は林や野や、小さい駅や宿で住む! でもちっとも違いはない。幸福にさえ暮らそうとしたら……きっと幸福にくらすことが出来る!」
「わしは今でも幸福だよ、たった今私は幸福になった。……しかし、お前には、秋安というお方が……」
「何にも有仰って下さいますな。……もう逢ったのでございます。……逢ったも同じなのでございます……」
拭くに由無い満眼の涙! 萩野の眼頭から流れ出たが、頬を伝わって頤まで来た。昔の恋を思い断って、新しい恋に生きようとする、悲しみと喜びの涙なのである。
花園の森は昼の日に明るく、草木と人とを照らしている。その中で桜花が蒸されている。
が、間もなく森の中から、十数人の香具師達が、流浪の人に特有の、軽快な自由な足どりで、笑いさざめきながら現われた。
近江をさして行くらしい。
その先頭に歩いて行くのは、新婿新妻を想わせるところの、梶太郎とそうして萩野であった。
肩と肩とを寄せ合って、つつましやかに歩いて行く。
野には陽炎、小鳥の声々! そうして行手にあるものは、新しい恋と生活とである。