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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
闇の中の声
「秋安様の予言どおりに、妾は小四郎様にあざむかれた」
さも後悔に堪えないように、声に出して女は呟いたが、他ならぬ娘の萩野であった。
今宵も忍んで来るがよいと、こういう約束があったので、萩野は恋心をたかぶらせながら、聚楽第の付近にある、小四郎の住居まで行ったところ、小四郎はどうしたものであろうか、けんもほろろの挨拶をして、萩野を追い返してしまったのである。
「野に在る花は野にあるがよい。其方はやっぱり野にある花だ。しかるに私は聚楽の家臣、地下の者とは身分が違う。何もお前を嫌うのではないが、これまでの縁はこれまでとして、其方は其方の昔にかえり、私は私の昔にかえろう。で、今後は私も行かぬ。其方も私を訪ねないがよい」
こういう露骨の言葉をさえ、萩野は小四郎から貰ったのである。
ことの意外に驚きながらも、どうすることも出来なかった。しかしどうしてそうもにわかに、小四郎の心が変わったのか、萩野には見当が付かなかった。
で、それだけでも聞きだそうと思って、小四郎の袖を抑えた時、潜戸が内からとざされた。で、聞くことさえ出来なかった。
で、そのまま婢女を連れて、しおしおと家へ帰ったのであったが、悲しさと口惜しさと怒りとで、眠ることなど出来そうもない。