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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
義兄弟の噂
しばらく話が途絶えた。春とはいっても、夜は小寒かった。各自に出されてある火桶に、炭火は充分にいけられていたが、広い部屋は、それだけでは暖まらないのであろう。
と、横手の襖が開いて、老僕がはいって来、新しい酒を置き無言で立ち去った。浪人たちは、ちょっと居住居を直したが、老僕の姿が消えると、また横になったり、胡坐を掻いたりした。一番年の若い武士が、燗徳利を取ると、仲間の盃へ、次々と注いだ。燭台の皿へ、丁字が立ったらしく、燈火が暗くなった。それを一人が、箸を返して除去った。明るくなった燈に照らされ、床の間に置いてある矢筒の矢羽根が、雪のように白く見えた。
「その時代には、ずば抜けた豪傑もいたものよ」と、角右衛門が、やがて回顧の想いに堪えないかのような声で、しみじみと話し出した。「もっとも、これは噂で聞いただけで、わしは逢ったことはないのだが、来栖勘兵衛、有賀又兵衛という二人でな、義兄弟であったそうな。この者どもとなると、十人十五人は愚か、三十人五十人と隊を組み、槍、薙刀どころか、火縄に点火した鳥銃をさえ携え、豪農富商屋敷へ、白昼推参し、二日でも三日でも居坐り、千両箱の一つぐらいを、必ず持ち去ったものだそうじゃ。