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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
ところが、不思議なことには、この二人、甲州の大尽、鴨屋方に推参し、三戸前の土蔵を破り、甲州小判大判取り雑ぜ、数万両、他に、刀剣、名画等を幾何ともなく強奪したのを最後に、世の中から姿を消してしまったそうじゃ」
「召し捕られたので?」
「それが解らぬのじゃ」
この時、庭の方から、轍でも軋るような、キリキリという音が、深夜の静寂に皹でも入れるかのように聞こえて来た。武士たちは顔を見合わせた。この者どもは、永の浪人で、仕官の道はなく、生活の法に困じたあげく、田舎の百姓や博徒の間を巡り歩き、強請や、賭場防ぎをして、生活をしている輩であったが、得体の知れない、この深夜の軋り音には気味が悪いと見え、呼吸を呑んで、ひっそりとなった。軋り音は、左の方へ、徐々に移って行くようであった。不意に角右衛門が立ち上がった。つづいて三人の武士が立ち上がり、揃って廊下へ出、雨戸を開けた。四人の眼へはいったものは、月夜の庭で、まばらの植え込みと、その彼方の土塀とが、人々の眼を遮った。しかし、軋り音の主の姿は見えず、ずっと左手奥に、はみ出して作られてある部屋の向こう側から、音ばかりが聞こえて来た。