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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
……何んといって蛙が啼いて死んだかご存知?」
「知るわけはござらぬよ」
「『久太アー』と啼いて死んだそうでございます」
「あッはッはッ」と左門は、爆笑した。「『キューター』……あッはッはッ」
爆笑してから、ハッと気がついた。
(俺は幾年ぶりで、気持ちよく、腹の底から、何んの蟠りもなく、笑っただろう?)
そうして、彼の気持ちは、快く爆笑させてくれた栞に対して、感謝しなければならないようなものになっていた。
(妾、どうして今日は、こう何んでも、気安く思うことが云えるのだろう?)
と、栞は栞で、自分ながらその事が、不思議なような気がした。(やはり、お父様のご病気がお癒りになったからだわ。……そうして、頼母様が、今日あたり、帰っておいでになるからだわ)
――それに相違なかった。それだから、心が喜悦に充ちてい、何んでも云え、何んでも受け入れることが出来、何んでもよい方へ解釈することが出来るのであった。
また二人は、しばらく沈黙して、向かい合っていた。
左門は、いつか、肘を枕にして横になった。
蕾を持った春蘭が、顔の前に生えていて、葉の隙から栞の姿が、簾越しの女のように見えていた。