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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

松戸の五郎蔵と、その乾児たちであった。

五郎蔵の左右に従いているのは、角右衛門と紋太郎とで、この二人の注進により、五郎蔵は、頼母によって、自分の乾児たちが殺されたことを知り、復讐のために乾児を率い、農家の納屋へ馳せつけた。乾児たちの死骸が転がっているばかりで、頼母の姿も、お浦、典膳の姿も見えなかった。母屋の門口で、種を選り分けていた老婆に訊くと、戸板を担った三人の者が、林の中へ駆け込んだと云う。

(頼母が、お浦と典膳とを戸板に載せ、生き残った俺の乾児に担がせ、逃げたのだ)

と、五郎蔵は察した。怒りと、嫉妬とが彼を狂気のようにした。

「どこまでも追っかけ、探し出し、頼母、典膳、お浦、三人ながら叩っ殺せ!」

こうして一団は林へ駆け込み、こっちへ走って来るのであった。乾児の中には、竹槍を持っている者もあった。もう性急に脇差しを抜いて、担いでいる者もあった。武士あがりの、逞ましい顔の五郎蔵は、額からも頤からも汗をしたたらせ、火のような息をしながら、先頭に立って走っていた。

殺気は次第に道了塚と、その附近の林とに迫りつつあった。

それだのに、紙帳の中の、何んと、今は静かなことだろう! 左門の声も栞の声も聞こえず、咳一つしなかった。