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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
髑髏であった。一体の、完全に人の形を保っている骸骨が、穴倉の壁面に倚りかかっていた。穴倉を出ようとして、よじ登ろうとして、力尽き、そのまま死んだものと見え両手を、壁面に添えて、上の方へ延ばしていた。仔細に眺めたなら、その骸骨の足もとに、鞘の腐ちた両刀が落ちているのを認めることが出来たろう。武士の骸骨である証拠であり、最後に犠牲になった伊丹東十郎の骸骨に相違なかった。その骸骨へ、もがいている五郎蔵の手が触れた。と、骸骨はユラユラと揺れたが、すぐに、生命を取り返したかのように、グルリと方向を変え、傾き、穴ばかりの眼で五郎蔵を見下ろしたかと思うと、急に五郎蔵目掛け、仆れかかって行き、その全身をもって、五郎蔵の体を蔽い、白い歯をむき出している口で、五郎蔵の咽喉の上を蔽うた。
恐怖の声が、道了塚の頂きから起こり、つづいて、氷柱のようなものが、塚の縁から穴倉の中へ落ちて行った。穴倉の中の光景を見て、気を取りのぼせた薪左衛門が、天国の剣を手から取り落としたのであった。
この時典膳の体が、小岩を抱いたまま、前方へのめり、それと同時に、穴倉の光景は消え、地上には、もう穴倉の口はなく、それのあった場所には、新しく掘り返されたような土壌と、根を出している雑草と、扁平の磐石と、息絶えたらしい典膳の姿とがあるばかりであった。