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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

それだのに賭金を引こうともせず、依然として三の目へ張り、

「壺!」と怒鳴っているのであった。

客人たちは囁き出した。

「お侍さんだけに度胸があるねえ」

「今度三が出たらどうなると思う」

「胴親が、四倍の、五百両を附けるまでよ」

「元金を加えて、六百二十五両になるってわけか」

「それじゃア、五百両胴は潰れるじゃアねえか」

染八という乾児が中盆をしていたが、途方にくれたように、五郎蔵の顔を見た。と、この時まで、小面憎そうに、勝ち誇っている浪人を、睨み付けていたお浦が、

「親分」と例の五郎蔵へ囁いた。

「喜代三を引っ込めなさいよ」

喜代三というのは、壺振りの名であった。

「喜代三にゃア、三が振り切れそうもないじゃアありませんか」

「大丈夫だ」

五郎蔵の声は自信に充ちていた。

「天国様が附いている」

それから神棚の方へ頤をしゃくったが、「五郎蔵の賭場、一度の疵も附いたことのねえのは、天国様が附いているからよ。喜代三、勝負しろ」

(天国様?)

と、五郎蔵の言葉を小耳に挾んで、不審を打ったのは、頼母で、

(それじゃアあの神棚には、天国の剣が祭ってあるのか?)

改めて神棚を眺めた。燈明の火が明るく輝き、紫の幕が、華やかに栄え、その奥から、真鍮の鋲を持った祠の、扉が覗いていた。