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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
と、例の、嗄れた、陰湿とした声で云った。
難剣「逆ノ脇」
左門は急に驚いたように、
「貴殿とは、今宵が初対面と思いましたが、そうではござらぬな。過ぐる夜拙者、道了塚のほとりの、林の中で野宿をいたし、通りかかりのお武家を呼び止め、腰の物拝見を乞いましたところ、拒絶られ、やむを得ず、一当てあてて……フッフッ、若衆武士殿を気絶させましたが、どうやらそれが貴殿らしい。……頼母殿、さようでござろう」
痛いところへさわられた頼母は、赤面し、切歯し、黙っていた。しかし彼には左門が気味悪く思われてならなかった。黒く大きく立っている離座敷、――壁と襖とは灰白かったが、その襖の開いている左門の部屋は、洞窟の口のように黒く、そこに釣ってある紙帳は、これまた灰白く、寝棺のように見え、それらの物像を背後にして、痩せた、身長の高い左門が、左手に刀を持ち、その拳を腰の上へあて、右手の拳も腰の上へあて、昆虫が飛び足を張ったような形で、落ち着きはらって立っている姿は、全く気味悪いものであった。
左門は云いつづけた。
「ところで、先刻、一人の女子が、拙者の巣へ――寝所へ、迷い込んでござる。