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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
蜘蛛は、自分の影法師を地に敷きながら、庭を宛なく彷徨って行った。と、また子供を産み落とした。紅裏をつけた、藍の小弁慶の、女物の小袖であった。蜘蛛は、庭の左手の方へ、這って行った。
やがて、母屋と離座敷との間の通路から、この旅籠、武蔵屋の構外へ出ようとした。そうしてまたそこで、地上へ、血溜りのような物を――胴抜きの緋の長襦袢を産み落とした。
三個の死骸を間に挾み、左門と向かい合い、隙があったら斬り込もうと、刀を構えていた頼母も、その背後に、後見でもするように、引き添っていた五郎蔵も、刀を逆ノ脇に構え、頼母と向かい合っていた左門も、その左門を遠巻きにしていた五郎蔵の乾児たちも、そうして、この中庭の騒動に眼を覚まし、母屋の縁や、庭の隅などに集まっていた、無数の泊まり客や、旅籠の婢や番頭たちは、この、紙帳蜘蛛の怪異に胆を奪われ、咳一つ立てず、手足を強張らせ、呼吸を呑んでいた。不意に、左門の口から、呻くような声が迸ったかと思うと、紙帳を追って走り出した。
「遁がすな!」という、五郎蔵の、烈しい声が響いた。瞬間に、乾児たちが、再度、四方から、左門へ斬りかかって行く姿が見えた。