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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
それにも増して、刀身へ穴でも穿けるかのように、その刀身を見詰めているのは、燠のように熱を持った薪左衛門の眼であった。
薪左衛門も栞も、時の経つのを忘れているようであった。どこにいるのかも忘れているようであった。
人は往々にして、真の驚異や、真の感激や、真の美意識に遭遇った時、時間と空間とを忘却れるものであるが、この時の二人がまさにそれであった。
名刀の威徳
「栞や」と、不意に、薪左衛門は、優しい穏かな声で云った。
「これは、天国の剣に相違ないよ。私には見覚えがある。遠い昔に――二十年もの昔でもあろうか、五味左衛門という者の屋敷から、天国の剣を強奪……いやナニ、頂戴したことがあるが、それがこの剣なのだよ。……ゆえあってその天国の剣は、今まで行衛不明となり、同志、来栖勘兵衛からは……いやナニ、誰でもよい、同志の一人からは、わしがその剣を隠匿したように誣いられたが……それにしても、栞や、よくそなた、この剣を目付け出してくれたのう」
その云い方は、全然、正気の人間の云い方であり、その声音は、これも正気の人間の、五音の調った、清々しい声音であった。
「まあお父様!」