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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

薪左衛門の記憶は徐々に返って来た。自分が有賀又兵衛と宣り、兄弟分の来栖勘兵衛と一緒に、浪人組の頭として、多勢の無頼の浪人を率い、関東一帯を荒らし廻った頃の、いろいろさまざまの出来事が、次から次と思い出されて来た。

(幾万両の財宝を強奪したことやら)

奪った財宝の八割までを、自分と勘兵衛とが取り、後の二割を、配下の浪人どもへ分配してやった悪辣の所業なども思い出された。そうして、大仕事をすると、官の探索の眼をくらますため、一時組を解散し、自分は今の屋敷へ帰って来、真面目な郷士、飯塚薪左衛門として、穏しく生活したことなども思い出されて来た。

(下総の五味左衛門方を襲い、天国の剣と財宝とを奪い、さらに甲州の鴨屋を襲って、巨額の財宝を手に入れたのを最後として、全然組を解散したっけ)

(その後、来栖勘兵衛は、故郷の松戸へ帰り、博徒の頭になった筈だ)

こんなことも思い出された。

(だが、何んの理由で、俺と勘兵衛とは、この道了塚で決闘したのだろう?)

決闘の現場の道了塚へ来て考えても、その理由ばかりは思い出されないのであった。

(わしの頭脳はまだ快癒りきらないのかもしれない)