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まちのにそうのはなし
街の尼僧の話
岡本 かの子
「婦女界」1932(昭和7)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,445 字 · 5 页
御姫様で御座いますが、それはもうピアノがお好きでお上手でお子様のうちから愛用のピアノをわざわざパリからお取寄せになり、読書や御散歩でない時は夜おそくまでも、ピアノに向ってお出でになりました。その音いろのおよろしいことは――それとお姫様のお美しい評判が、間もなくナンシーの町までも聞えたなどと申しますと、お姫様はいやな顔を遊ばしましたが、まったくあなた、それほどの評判が却って仇となったとでも申しましょうか、敵がナンシーの町から、その土地へ崩れて這入ったとか、這入らないとか聞きましたばかりの時に、もう御別荘の門のあたりでどやどやという物騒がしさです。
お伯父御様があなた軍人でおあり遊ばしたばかりに、真先に抵抗遊ばして無惨な御最後とも知らずに、お姫様はいつもの奥まったお居間で、ピアノを一心に弾いて居らっしゃいました。私がお知らせに馳け付けて開けたお部屋の扉から、敵がドヤドヤと押入って、お姫様はピアノごと、ぐるっとドイツの鉄兜に囲まれてお仕舞いになりました。
ピアノから手をお離しになったばかりのお姫様は、大した驚いた動作を遊ばさない代りに、お顔はまるで宝石の様に堅く血の気を失ってお仕舞いになりました。