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まちのにそうのはなし
街の尼僧の話
岡本 かの子
「婦女界」1932(昭和7)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,445 字 · 5 页
兵士達はあまり端厳なその御様子にうたれて、お死骸をお姫様の傍へ丁寧に置き、ピアノの前後を寛く取囲んで、行儀よく起立して鳴り出すピアノの音を待ち受けて居りました。
静に――そして高く晴やかにピアノが唄い出したのはマルセエイズ――フランスの国歌でありました。
お姫様の白衣の背は直に弾丸に撃ち抜かれてしまいました。お倒れになりましたその裳に縋って気を失った私を、何故敵兵はその時殺して逃げて呉れなかったのでしょう。
気が付いた時は町全体が荒され果てて居りました。逃げ散って居た他の召使共と私は、お二人のお死骸をともかくも始末申上げ、お姫様の御両親様を送った教会の尼僧様の処へ戻って参りました。
それから十年。私は御一家のみ魂を守りながら尼僧様のお手助いを致して居ります。でもあなた、もともと尼僧の教養も無い私で御座いますもの、せめて御教壇のお掃除をしたり、斯うして街へ教会の慈善事業の寄附金を集めに出ましたり致すのが、せいぜい私のお勤めどころで御座います。