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まちのこうふく

街の幸福

小川 未明

「童話文学」1929(昭和4)年7月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,723 字 · 6 页

青空文庫

童謡もあれば、また、流行歌のようなものもうたったのであります。

前を通りすぎる人々は、ただ、こちらを見て、いってしまうのや、また、ちょっと立ち止まって、二人の顔をのぞきこんで歌も聞かずに、去ってしまうのもあり、あるいはしばらくたたずんで、バイオリンの音と、少年の歌うのを聞いているものもありました。

その長い間、みすぼらしいふうをした父親は、同じ姿で、楽器を弾いていました。自分の弾く音色に、ききとれているのか、それとも子供の唄にききとれているのか、うつむきかげんに頭をかしげていました。やがて、いくつかの唄がすむと、少年は自分のかぶっている帽子を脱って、それを持って、立っている人々の前をまわりました。すると、なかには帽子の中に銭をいれてやるものもあったが、少年が、その前にこぬうちに、さっさといってしまうものもありました。

時がたつと、人の往来も減じてゆきました。そして、まわりに立つ人影も少なくなった。けれど、二人は、明日の生活のためには、まだ、その晩の稼ぎをつづけなければなりません。いつしか、このあわれな父親と子供だけを、そのまま残して、人々は、みんなどこへか消えてしまいました。