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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

なんだって、君なんかが好きになったんだろうね。変な夢を見る奴さ」

「ふん。夢を、ね」

「ぼくは、ねるぜ。君、勝手にのんで、勝手に、ねたまえ」

長平はタタミの上へころがって枕を当てた。

「君はフトンをしかないのか」

「そう。夏はね。たまに、グッスリねむるときだけ、フトンをしくのさ」

「じゃア、失敬するよ」

「そうかい」

「君とねたかアないからな。目がさめて、大坊主のねぼけ顔を見るなんざア、やりきれやしないからな。君は、今日、記代子さんに会ったろうね」

「会わん」

「なぜ」

「ぼくが上京するてんで、会社を休んだそうじゃないか」

「……」

青木は顔色を変えた。思い直して、

「じゃア、帰ろう。このウイスキー、くれないかね。夜明けまで、どこかの焼跡でのんでるんだよ」

「もってきたまえ」

「記代子さんもオレみたいなことをやってるんじゃないかね。会社を休んで、行くところなんか、ありゃしないと思うんだがな」

「心配することはないだろう」

「そうかい。じゃア、失敬」

青木はウイスキーのビンをぶらさげて、茶室をはなれた。

その日、記代子が会社を休んだことは知っていた。長平の上京の日だから、迎えに行ったのだろうと思っていたのだ。