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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

「タバコを吸うのかしら?」

ふだん吸ってるのを見たことはない。しかし机の上に小さなピンク色の灰皿があった。マッチ箱は軸がつまっていて、ほとんど新品だ。三ツ四ツ例外はあるが、大部分が同じ店のマッチであった。

「ノクタンビュール」

たしか青木前夫人の働いているバーである。店の名だけはきいていたが、彼はそこへ行ったことがなかった。あんまり数が多すぎるのでザッと数えると、二十いくつあった。いつも青木と一しょだから、その店へ行くことがあるのにフシギはない。しかし、ずいぶん通ったものだ。それとも、まとめて貰ってきたのだろうか。放二はマッチ箱を手にとってボンヤリ見つめて考えた。しかし、思いつくことは何もない。

「とにかく、マッチ箱の店へ行った事実はあるのだから」

と、放二はマッチ箱の店名を手帳に書きとった。箱根や伊豆の温泉旅館のマッチが三ツ。彼の知らない銀座のバーが一つであった。箱根、伊豆、そんなところをブラブラしてるんじゃなかろうか。なんとなく、そう考えておきたいような気持であった。

捜し終って、放二は宿の人たちの話をきいた。

「金曜の朝は、いつもの出勤時刻に、おでかけでしたでしょうか」