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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

すると、その十日ほど前までです」

放二はあやしんで、

「青木さんとご一しょではなかったのですか」

「いいえ。青木と一しょは一回だけ。それから一ヶ月あまりたって、つづけさまに十日ほど、いらしたのです。いつも一人で。で、たいがい、とッつきの長椅子へお坐りなの。私にここへおかけなさいッて、隣へ並んで坐るように命令なさるのよ。そして私が坐りますとね。あなた、おもしろい? つまんないわね、ツて、挨拶代りに仰有る言葉が必ずそれなんですよ。私はほかのテーブルにも回らなければならないでしょう。代りにほかの女給さんが行って話しかけても、ご返事なさったことないの。誰も行く人なくなっちゃったわ。私だって、あの方のテーブルへ行って、たのしいッてこと、ないんですもの。時々、あの方のそばへ行くことがあっても、せいぜい一分間と居たことがなかったんです。いつ、行っても、仰有ることは同じよ。おもしろいの? つまんないでしょ? それだけなのよ。一日に何度でも。私があの方のそばへ行くたびに。そして、ほかの話らしいことはほとんど話し合わなかったわ。その機会はあるんですけどね。一分間ぐらいは、坐っていましたから。