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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

顔をなでてみた。洟もでていない。

ルミ子は暴行されたことを知った。

彼女がフトンの上へねかされていたことや、全裸にされて身体の汚物をキレイにふきとられていたことは、エンゼルの仏心でもなければ、人工呼吸のためでもない。心ゆくまで暴行をたのしむためであったにすぎない。

ルミ子は全身の力がぬけ落ちるような落胆を感じた。彼女が敢てしたことは、すべて徒労だったのだ。ルミ子は性戯ということに特別の感情をもたなくなっていたが、自分の知らないうちにエンゼルのいろいろの侮辱を蒙ったことを思うと、救われようもない悲しい思いに沈んだ。

「なぜ生き返ったのだろう!」

彼女は泣きだした。はりつめていたものが、際限もなくゆるんで行くようであった。小学校の初年生のころ歩いた道々の野原の橋や、その小川のほとりのレンゲ草の咲いている河原が見える。そこに花をつんでいるのは、たしかに自分だ。小学校の一年生の自分なのである。一方はあかるい青空だし、一方の空は燃えるような夕焼だ。そして橋のタモトから、自分のすぐ手のとどくところから、一米ぐらいの階段のような虹が、まっすぐ夕焼の空へかかっているのである。