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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

しかし、老境は老境ですよ」

青木はしばらくビールをたのしんでから、ようやく記代子のことを思いだして、ひどい姿でどこからか彼のもとへ逃がれてきて、目下入院中だということを語った。

「ゆうべ、おそく、東京から電話で、そのことはきいていたよ」

まだ朝食前の長平もビールをのみはじめた。

「どんな人生だって、同じことだろうよ。聖処女が、とたんに淫売になったところで、なんでもありゃしない。めいめいが自分の一生をかけがえのないものだと分ればタクサン。記代子がそんな風になったことと、女学校へ入学することと、差の違った出来事だと考えることができないよ。もう、そんな話は、よそうじゃないか」

十

青木は一ねむりして目ざめると、浴衣がけで京都の街々を散歩した。しかし彼には、街や人よりも、山や川が胸にしみてくるのであった。

業平や小町や物語の光君という人などが花やかな貴族生活をくりのべていたころでも、古都は明るいものではなかった。賀茂の河原は疫病で死んだ人の屍体でうずまり、屍臭フンプンとして人の通る姿もなく、烏の群だけが我がもの顔に舞いくるっていたものだ。

関ヶ原の畑をほると、今でも戦死者の骨がでゝくるそうだが、賀茂の河原からは、何も出てきやしないだろう。