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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

二

長平がせつ子の招待を承諾したので、二人は安心して辞去した。記代子はそこから出勤し、放二は報告のために、せつ子の社へ立ちよった。

もしや青木が待ち伏せていてはと、放二はビルの裏口からはいった。そんな配慮を忘れなかったが、放二は裏をかかれたことを知らなかった。

青木は戦後の出版景気に当てこんで、最近まで雑誌社もやってきたので、編集者の生態については知るところがあった。彼らは社へでる前に作家を廻って用をたし午すぎるころ顔をだす。一二時間ブラブラして、又、原稿の依頼や催促にでかけてしもう。それは朝寝と早びけの言訳にも便利である。

放二は要心しているし、口が堅いから、彼をつかまえて、たのんでみても、長平の宿を教えてくれる見込みはない。

そこで早朝から放二のアパートの陰に身を隠して待ちぶせた。出勤前に長平を訪ねて用をたす公算大なりと見たからである。

果して放二は新宿で記代子と待ち合して、社へは行かずに、とある屋敷の門をくぐった。旅館ではない。ちょッとした閑静な小庭があって、妾宅か、隠居家のような構えだ。

これを長平の住居と見てとったから、しばらくたって放二と記代子が立ち帰るのには目もくれず、やりすごして、門をくぐった。