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まち
街
宮本 百合子
「女性」1927(昭和2)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,689 字 · 37 页
ダーリヤは落付いた調子で答えた。
「子供ですものまだ何と云ったって――でも本当に年より役に立っていますわ」
マリーナは朝から、養女のアーニャが麻布の夫の家から使に来るのを待っているのであった。
「私に充分正当の理由のある衝突でこうやっているのに、顧客まで失くしちゃいられないわ、ねえ」
彼女は、自分のところへ来た注文はどんな小さいものでも、洩れなくアーニャにダーリヤの二階まで運ばせた。彼等夫婦の間には他人の理解出来ない特別の諒解があると見え、そんな持続的の喧嘩をしつつ、エーゴル・マクシモヴィッチの方も、妻の稼ぎに対しては咳払い一つしないらしかった。そんなことは、ダーリヤの常識には変に思えた。喧嘩が本気なのかどうか疑わしい心持になった。マリーナにとっても、夫のそういう態度は不満であった。自分一人の口過ぎさえしていれば、エーゴル・マクシモヴィッチにとって自分はどこに暮していようとかまわない存在なのか。三百円返す気はないのか。異様な不安が、彼女の厚い、ややじだらくな胸を掻き廻すのであった。ダーリヤは、彼女の自信のない心の底を見透して、或る時は哀れに、或る時は若い女らしい皮肉を感じた。