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まち

街

宮本 百合子

「女性」1927(昭和2)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,689 字 · 37 页

青空文庫

底にぽっちり葡萄酒の入っている醤油の一升瓶がじかに傍の畳へ置いてある。ルイコフが、彼のマンドリンと一緒に下げて来たものだ。ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところであった。栗色の髪の薄禿げた、キーキー声を出すエーゴルは、ジェルテルスキーの言葉で、妻を迎えに来たのであった。

「レオニード・グレゴリウィッチにもお気の毒だから、一先ずお帰り、――これこの通り、騙しゃしない、半分だけ兎に角かえして置くから」

エーゴルはジェルテルスキー夫婦の前で卓子の端から端へ十円札を十五枚並べた。

「いやです、あんたのてですよ、誰がだまされるもんか、これだけで、あと半分はふいにしようと云うんです」

「返す、きっと来月中にはかえす」

「じゃそれまで待ちましょう。本当に、抑々あなたの云うことを真に受けたばっかりにこんなことになってしまった。――金はあるんですとも! 勿論あるのさ。それをかくして置いて私のをへつるんでしょう」

「じゃあ、どうでもするがいい」

エーゴルは憤ってマンドリンをとり上げ、彼の声のように甲高な絃を掻きならした。

「さ! レオニード・グレゴリウィッチ、久しぶりでどうです」