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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
。場合によっては、そんな風に云い逃れの可能性もあることを計算の上の仕事なのです。
ぼくに見破られていることに気附くまで、ぼくは何分間も奴めの顔を睨みつづけていました。奴めはいちはやく気がついた様子でしたが、対処の策が定まるまで気づかないフリをしていました。彼は急に慌てたフリをして、顔を赤らめ、
「法本はとても良い人なんだ」
と云いました。そこでぼくは意地わるく、
「キミは法本はわるい人だと云うべきか、よい人だと云うべきかと考えた上で、よい人だという方を選んだんだね。キミは法本に味方する気だね、ぼくたちよりも」
「そんなことはないよ。ぼくは純粋に法本を信じてるんだ。彼は当代の人物だよ」
「するとぼくやトオサンはどうなんだ。当代の人物のギセイになってもいいような、とるにも足らぬ人物か」
「そんな云い方はよしてもらいたいね。キミやトオサンは、イヤ、すくなくともトオサンは善良な人だよ。善良そのものの人物だよ。ほとんど神にちかい人だ」
「神サマはだまされてもいいわけか」
「キミはヒステリーだよ。おかげで酒の酔いがさめたじゃないか。法本という人は、それはむろん欠点もあるし、人間の宿命としてのもろもろの悪は強く背負っていることは云うまでもないことだけど、しかし彼は人生的に一個の見事な芸術家だよ。