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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

そして彼は、媚びを売る女達のなまめかしい姿態と香りを眼前に浮べて、想像の中であれこれと選択をした。

――今日出かけて行こう。

ぴょんと踊りはねるような気持で、彼は敏子の方へやっていった。彼女の側には、生れて百五十日ほどになる赤ん坊が、母衣蚊帳の中にすやすや眠っていた。彼はその蚊帳の中へ、腹ん匍いになって頭だけをつき込んで、幼児の柔かい頬辺を、指先でちょいとつついてみた。

「あら、いけませんよ。今眠ったばかりじゃありませんか。」

「はははは、眠ってるな。」

その大きな笑い声になお喫驚して、眉根に小皺を寄せて、子供の方を覗き込んでる敏子の顔を、彼ははね起きながら眺めやった。

敏子の眉根が、やがてゆるんで、子供の寝顔の反射のように、無心の笑みが頬に上ってきた。と一緒に、彼もにこにこと微笑んだ。

「子供の寝顔っていいもんだなあ、」と咄嗟に、出たらめに、

「まるで海みたいなものだ。」

「え、海……。」

「海が見たくなっちゃった。」

「じゃあ見にいらっしゃいよ。」

「そうだな、今から行って来ようか。だが……。」

「なあに……。」

「まだ暑いし、……。」

「だから、海は涼しくていいんじゃありませんか。