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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

新聞や雑誌を退屈しのぎに拡げてはいるが、別に読むという風でもない。ぼんやり空想に耽ったり、赤ん坊の方をじっと眺めたりしている。長い髪の毛が乱れている。櫛で綺麗にかき上げてもすぐ乱れてしまう、細いしなやかな毛である。その頭髪と妙な対照をなして、痩せた浅黒い顔が固く骨立っている。冷い固い感じの、色艶の悪い皮膚である。眼だけがひどく敏感に、黒ずんだり閃めいたりする。赤ん坊の方を見る眼付が、時々執拗になる。その度に、敏子は変に赤ん坊を庇う気配が見える。と同時に、彼女は得意げである。勝ち矜ったようでさえある。世間苦に染まない呑気な彼女に、そんなことは極めて珍らしい。にも拘らず、殆んど本能的な自然なものに見える。取り繕ったところが少しもない。その得意げな矜りで、彼女は赤ん坊を庇護してるかのようである。武田は一寸、苛ら立つように見える。が瞬間に、ひどく淋しそうな眼付をする。敏子の頬にかすかな微笑の影が漂っている。やがて凡てが消えて、静かな時間が続く。凪ぎ……。凪ぎの底から、赤ん坊がむくむくと動き出す。敏子も武田も、その方に眼を注ぐ。赤ん坊は変な声を立てる。泣くのでも叫ぶのでもない。