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らしんのにょせん

裸身の女仙

野村 胡堂

「朝日」1932(昭和7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,437 字 · 29 页

青空文庫

鞍馬は、何程かのお鳥目を娘に握らせて、其儘宿に飛んで帰りました。

慣れた旅支度と言っても夕景まで手一杯に急いで、小日向の安城邸に駈け付けたのはもう戌刻(八時)少し前、夏の日もすっかり暮れ切って、忍びの旅立ちには丁度宜い頃合でした。やがて、門を出て来たのを見ると、駕籠が二挺、一つはお鳥の捕われの姿で、一つは、主人の郷太郎でしょう。それに用人、仲間、草履取まで一行八人、さすがに大身だけ警固に一分の隙があろうとも思われません。

特に用人小畑藤三郎は、中年者乍ら槍の名人、道中は長物を憚って、袋のままの手槍を毘沙門突きに、大きい眼を四方に配ります。

門を出ると直ぐ――。

「小畑、先程も申す通り、万一曲者に出逢ったら、其方は先ず第一にその槍で、女の駕籠を刺すのだ。間違っても、曲者に向ってはならぬぞ」

先の駕籠から斯う声を掛けたのは、言うまでもなく安城郷太郎、お鳥を狙う者のあるのに、薄々気が付いたのでしょう。

萩江鞍馬は、分別もなく、一行の後を追いました。

泊りを重ねて、碓氷へかかったのは、それから四日目、安城郷太郎の一行は、日の暮れたのも構わず、峠道へ――、傍目も振らずにかかりました。