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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
どこから射つのやら、ときどきヒューッと呻って、銃丸が耳をかすめて飛び去った。
「おお、此処にいましたね、漢于仁君」
いきなり漢青年の背後から声をかけたものがあった。彼はギョッとして、振向くとそこには夜目にもそれと判る人の姿があった。それは、例の怪しい医師だった。
「これは一体、どうしたことなのです。そして君は誰です」漢青年の声は火のようであった。
「あなたの祖先の地が、漢于仁君の帰国を待っています」その怪しい医師はパキパキした声で云った。
「なに!」
「一刻も早く御帰国なさい。だが此所で御覧のとおり、事態は極度に悪化しています。遁れる路は唯一つ、お濠をくぐって、山下橋へ」
怪しい医師は、小さい包を、漢青年にソッと握らせた。青年は、その手を無言の裡に、強く握りかえすと、そのままツツと屋根の上を走ると見る間に、ひらりと身を躍らせて、飛び降りた。大きな水音がきこえると、彼の怪しい医師は、暗闇の中に、ニッと微笑したのだった。
4
「昨夜の事件は、当分記事禁止らしいね」私は、片手を繃帯で痛々しく釣った帆村に云った。
「それほどのことでもないが」と帆村はニヤリと笑った。