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さいかくとかがく
西鶴と科学
寺田 寅彦
「日本文学講座 第十五巻」改造社、1935(昭和10)年1月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,913 字 · 20 页
これも、いつの世にも変らない浮世の事実であろう。
余談ではあるが、西鶴の文章には、例えば馬琴などと比べて、簡単な言葉で実に生ま生ましい実感を盛ったものが多い。例えば、瑣末な例であるが『武道伝来記』一の四に、女に変装させて送り出す際に「風俗を使やくの女に作り、真紅の網袋に葉付の蜜柑を入」れて持たせる記事がある。この網袋入りの蜜柑の印象が強烈である。また例えば『桜陰比事』二の三にある埋仏詐偽の項中に、床下の土を掘っても仏らしいものは見えず「口欠の茶壺又は消炭螺からより外は何もなかりき」とある。こういう風に、聯想の火薬に点火するための口火のようなものを巧みに選び出す伎倆は、おそらく俳諧における彼の習練から来たものではないかと思われる。もう一つの例は『一代女』の終りに近く、ヒロインの一代の薄暮、多分雨のそぼ降る折柄でもあったろう「おもひ出して観念の窓より覗けば、蓮の葉笠を着たるやうなる子供の面影、腰より下は血に染みて、九十五、六程も立ならび、声のあやぎれもなくおはりよ/\と泣きぬ、云々」とある、これが昔おろした子供の亡魂の幻像であったというのである。実に簡潔で深刻に生ま生ましい記載である。