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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
この四年ばかりの間というもの、宮内は治部太夫を訪れたことがない、治部太夫の娘きいが、望んで生島慎九郎に嫁いでからは、宮内にとって治部太夫は、躓かせた路端の石ころだった。
「珍しいのう弓削田氏、取り乱しているが、ここへ御座れ、いやその後はトンと無沙汰じゃ」
額が禿げあがった、この大兵な老人は、疎にはなったが丈夫そうな歯を剥き出して、元気よく宮内を待遇した。
宮内は沈鬱な顔つきで、世間話を口重そうに語り出した。
「時に、今日の来訪は、何用じゃのう」
杯を下にして治部太夫は、家人が今出て行った後をチラと見てから尋ねた。
「は、矢作殿、――御家はこの後どうなりましょう」
「どう、どうなるとは何事だのう」
「主水一類を誅し終って二年になります」
「おお二年になる」
「御家は安泰でござりましょうか」
「はて、何故事新しげにそのようなことを尋ねるのじゃのう、会津四十万石、大盤石の如く御当家は千代八千代じゃ」
「それは浅見じゃ、やがて御当家は御取潰し、これは免れぬ御運じゃ」
「不祥なことをいうな、口を慎め、――いらぬことをいう男じゃ」
「主水一類と四十万石引換えにと、式部少輔殿が申された、その始末がやがてつけられましょう」