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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
折よく重役の評定がはじまって追討派と非追討派とが、今論争中だという報があったので、慎九郎はその方へ耳を傾け、宮内からなるべく遠ざかろうとしたかった。
宮内は逃さなかった。わざわざ慎九郎の後へきて、その袖をひいて詰った、その顔つきは蒼さが先ほどよりはよほど濃くなっていた。
「前後をよく弁えてから物はいうものじゃ、第一の着到はかくいう弓削田宮内じゃ、お歴々といえども、着到順から申せば皆後じゃ」
「なに、そうか、手柄じゃのう、したが生憎と武芸下手でいかぬわい」
慎九郎は、男の面目として、殊に一人の女を争って勝利に誇る日が、目前に近づいている慎九郎だ、恋争いに敗れた宮内から、一本うち込まれて、閉口し放しでいられなかった。
◇
宮内が思いをかけた女は、矢作治部太夫の娘きいであった。そのきいには慎九郎も、熱心に執着して争った。
泰平の御代と、人は口癖にいっていたが、その泰平は的にならない気がした頃のことだ、色の白い、骨細の優男の宮内より、逞しい体をもって、力も人並以上あり、起居も雄々しい慎九郎の方が、治部太夫の娘の気に入った。
恋争いに敗北した宮内は、その原因が武勇の劣ったことにあると聞いて、口の傍が頻りにひきつる気もちがした。