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しけんかん
試験管
寺田 寅彦
「改造」1933(昭和8)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,595 字 · 20 页
になって来た。
思うに、従来はいていた靴のかかとがだいぶ減って低くなっていたので、それに長い間慣らされた足の運びが、今度の新しい靴の少しばかり高いかかとに適応するまでに少しばかり骨が折れたものと見える。
そのうちに、古いほうの靴のゴム底ができて来て、試みにそれをはいて歩いてみると、なるほど踏みごこちは柔らかいが、今度はあまり柔らか過ぎて、べとべとした餅の上でも歩くような気がする。はなはだたよりない気持ちがするのであった。
これに似た他の場合を思い出す。
半年ほど下駄というものをはかないでいる。そうして久しぶりに下駄をはいて四五町も歩くと、足一面が妙にひきつれたようになって歩けなくなる。おしまいには腰のへんまでひきつってしまう。それが、足袋をはいてだと、それほどでもないが、素足のままだと特別にひどいようである。
はき物でさえ、そうしてはき物の大きさや素材のこんな些細な変化でさえ、新しいものに適応するということの難儀さかげんがこれほどまでに感じられるのである。過去の世界で育ち過去の思想で固まった年寄りの自分らが、新しい世界を歩き、新しい思想に慣れるまでの難儀さ迷惑さはどのくらい大きいものか、若い人には想像するさえむつかしいであろうと思われる。