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ゆうかいしゃ

誘拐者

山下 利三郎

「新趣味」1922(大正11)年 12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,834 字 · 16 页

青空文庫

のは……飛んだ御心配ですね、お忙しいのに気の毒ですが少しお尋ねします、昨夜最初ここへ帰ったときは何時でしたか」

「十時三十五分には少し前でした」

「裏の納屋の方は誰れがいつもお掃除をせられますか」

「毎朝お嬢様が運動だと仰有ってお掃きなさいますので、妾達はあそこの掃除をしたことはございません」

「お嬢様のお召物を買うのはいつも主に何処です、それから当家の墓地は何処ですか」

「横町の大村屋で御座います、お墓は○△寺です」

「よく気のつく愉快な方であったと思いますが、前は気難しい沈だ方ではなかったですか」

「よく御存じですこと、この春までは仰言るとおり陰気なお方で、お変りになったのには妾も不思議に思っているので御座いますよ」

「よく判りました、有がとう御邪魔しましたね」

会釈して春日は旧の客間へ還った、善兵衛は苦り切って居た。併しまだ少し既往について直聴して置く必要があった。

「この度の結婚の話の外に以前に何処からか、申込がありましたか」

「エエありましたとも沢山ありました、この前のは東京に開業して居る年老た医者が、四月頃来て田舎の甥に嫁が欲しい、少々の財産もあって両親には早く別れて兄弟二人きりだとかで、本人は文学士だと云ってましたがこれは余り話にも、気乗がしなかったので謝絶しました」