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どくしょへんれき
読書遍歴
三木 清
「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页
そのことを公然と述べた人があってだいぶん問題になったこともあったが、たいていの学者は心中実際にそのように考えているのではなかったかと思う。ともかく第一次世界戦争が私に直接の影響として感じられたのは、ドイツ語の本が手に入らないということくらいであった。現在では全く想像もできないようなことである。
八
大学生活の三年間、私は下鴨の同じ一つの下宿で暮らした。それは蓼倉町で、その頃はまだ附近に余り家が建っていなかったので、室を出るとすぐ前に比叡山を見ることができた。九月のなかば初めてその下宿に行ったとき、葉鶏頭の鮮かな色がきわめて印象的であったが、その家では毎年美しい葉鶏頭を作っていた。私はその下宿を「雁来紅の家」と自分ひとりで呼んでいた。今でも葉鶏頭を見ると、八田といったその下宿のことが思い出されるのである。同じ年京都の哲学科に入ったのは私と広島高等師範を出た林礼二郎(旧姓森川)との二人であったが、やがて森川も私の下宿に移ってきて、私と同様卒業するまでそこに留まった。私たちはたいてい一緒に加茂の森を抜けて学校へ通った。
大学時代に読んだもので最も大きな影響を受けたのはいうまでもなく西田幾多郎先生の著作である。