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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

その間、私はあまり旅行もしないで、ほとんど本を相手に生活した。留学は私にとって学生生活、下宿生活の延長に過ぎなかった。幸いなことに――この言葉はここでは少し妙な意味をもっている――私はまた当時思う存分に本を買うことができた。ドイツにおけるあの歴史的なインフレーションのおかげで私たちは思いがけなく一時千万長者の経験をすることができたのである。先日も私はラテナウの『現代の批判』という本を読みながら、初めてドイツに入った日のことを想い起した。マルセーユからスイスを通り、途中ジュネーヴを見物して、ドイツに入ったその日、私たちは汽車の中で見た新聞によってラテナウが暗殺されたことを知ったのである。私たちというのは船の中で知り合った四、五人の仲間で、その中にはブルーノ・タウト氏の弟子となった若い建築家上野伊三郎がいた。(上野の名は岩波新書の『日本美の再発見』におけるタウト氏の文章の中に出てくるから読者の中には記憶されている方もあろう)。今手許にあるヘルデルの百科辞書を開いてみると、ラテナウは一九二二年六月二四日ベルリンで「ユダヤ人並びに“Erf※(ダイエレシス付きU小文字)llungspolitiker”(ヴェルサイユ条約履行主義の政治家という意味)として国民社会主義の行動派によって暗殺された」