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どくしょへんれき
読書遍歴
三木 清
「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页
私がハイデルベルクに行ったのは、この派の人々の書物を比較的多く読んでいたためであり、リッケルト教授に就いてさらに勉強するためであった。リッケルト教授はハイデルベルクの哲学を代表し、その講義はかつてヘーゲルが、クーノー・フィッシェルが、ヴィンデルバントが講義したことがあるという由緒のある薄暗い教室で行なわれた。――リッケルトに『ドイツ哲学におけるハイデルベルクの伝統』(一九三一年)という講演の出版されたものがある。――リッケルト教授には自分の家を離れると不安を感じるという一種の神経性の病気――学生たちはたしか“Platzangst”と称していた――があるということで、大学へはいつも夫人と書生のようにしていたアウグスト・ファウスト氏とが附き添って馬車で来られた。私は教授の著書はすでに全部読んでいたので、その講義からはあまり新しいものは得られなかったが、この老教授の風貌に接することは哲学というものの伝統に接することのように思われて楽しかった。リッケルト教授のゼミナールは自宅で行なわれた。私はそのゼミナールで左右田喜一郎先生のリッケルト批評について報告したが、教授も左右田先生のことはよく記憶しておられたので、嬉しそうであった。