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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

という論文で講師の地位を得たウィンクレル氏がある。氏はウォベルミンの弟子であった。

このようにして私たちは若い学者をいわば家庭教師にして勉強することができた。これも全くインフレーションのおかげであった。ドイツ人の不幸は私ども留学生の幸福であった。今日わが国においてインフレーションの危険の語られるのを聞くたびに、私はあの頃のことを考え、当時のドイツのインテリゲンチャの表情をまざまざと思い浮べるのである。

十二

私の書斎には今マールブルクの町を描いた小さいエッチングが懸っている。これはそこの或る大学生が内職に作って売っていたのを求めてきたのであるが、当時のドイツの学生の多くがどのような経済状態にあったかを想い起させる材料である。ハイデルベルクで一年余を過した私は、マールブルクへ行った。あの関東大震災を大きく取扱った新聞記事に驚かされた時には、私はまだハイデルベルクにいた。その日阿部次郎氏を訪ねて、そのことについていろいろ話したのを覚えている。ハイデルベルクで知り合った誰彼に別れて、私はマールブルクへ行った。この小さい町で多分一人で暮らさねばならないだろうと思って出かけたが、ここでも私は日本から来た留学生の誰彼を見出した。