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だれのために
誰のために
宮本 百合子
インテリゲンツィアと民主主義の課題
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,936 字 · 12 页
本郷の帝国大学のある本富士警察の留置場、学校の多い西神田署の留置場などは、東京の警察の乱暴な留置場の中でも、最も看守の粗暴なところであった。帝大の学生そのほか諸学校学生で、社会科学の研究をしているくらいの青年たちと、条理において論判したら、看守は決して理に立って自分を権威づけられない。彼等はこの事実を見ぬいていた。それだから、これらの留置場では、理屈を云わせないために、一寸した口ごたえをしようとしても、看守はその留置人をコンクリートの廊下へひきずり出して、古タイヤや皮帯で、血の出るまで、その人たちが意気沮喪するまで乱打して、ヤキを入れた。殴る者のいないときは、そういうもので留置場の扉をうって歩いて、そこに刑具のあることを示威した。軍隊のビンタは、個人の自尊心、個性の自覚、個人の権利の観念を、その頭からはたき出すために行われた。日本のインテリゲンツィアは、こういう留置場の皮帯も、軍隊のビンタも、すべてを直接に、或は間接に肉体にうけて生活して来たのであった。従って、ひととおりそういう脅迫的な権力が崩壊したとき、日本の知識人は、はじめておおっぴらに自身の侮蔑を表現し、憎悪を示し、それにつばきしたのであった。