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ひょう
豹
山本 周五郎
「アサヒグラフ」1933(昭和8)年9月20日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,656 字 · 14 页
「なにしろ肉食獣やから、山へ入るはずはないと思います、きっとこの辺をうろついているに違いありません」
和田は猟銃をまさぐりながら、やがて自分の庭のほうへ帰って行った。嫂は冷然と書物の頁を繰っていたが、しばらくして、
「正三さん、今夜はこっちへお泊りなさい」
と云った。
「怖いですか」
と訊くと笑いもせずに、
「あなたが怖いでしょうと思ってよ」
と答えた。正三は母屋の二階で寝た。
明くる日正三は、日課にしている図書館行を止めて家にいた。
夕方ちょっと散歩に出たが、いつも閑散な住宅地の隅々まで、うそうそとした不安な動きがあって、人々の眼も妙に落着を失っていたし、白じらとした、道の上を吹通る浅秋の風も、なにか脅かすような、冷えびえとした肌触りをもっていた。
夜になってから、例によって猟銃を持った和田がやって来て、一時間ばかり前に上今池のほうで、大きな番犬が豹のために噛殺されたという話を伝えた。町のほうでは青年団や在郷軍人が招集されて、今夜は山狩をするそうであると云うと、純子が冷やかな微笑で、
「和田さんも山狩隊に加わったらよろしい」
と皮肉を云った。
「いや、わたしはここを離れられませんのや何しろ女房や餓鬼があるし――それに、奥さんところやって不要心で」