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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
忽爾跫然として廊下の端に、殺気を帯びて、人影露る、近づくを見れば小浜照子。影を隠して秀は潜みぬ。
既にして間近に来れり、あたかもこの時四隣寂寞気結沈声、陰々として、天井黒く壁白し。
照子は屹と眼を注ぎぬ。
異様の姿、するりと出づ。
きゃっ……と一声、あっ……と一声、続いて起る金切声、「来て下さい来て下さい。」
呼ぶ時遅し五六人、今の二人の魂消りしに何事ならんと駈附けつ、真先なるは時次郎、「照子様、どうなさいました、幽霊が出ましたかね。」と笑いながらふとむこうを見て、「や……妙なものが僵れている。何だ。やはり人らしい。しかも女だ。誰だろう。」
肩と鳩尾に手を懸けて後抱に引起す、腕を伝うて生暖きもの、たらたらたら。「ええ」と引込め臭を嗅ぎ、「腥いな。」と呟く時、綾子は引摺りたる小袖の裳、濡れて、冷く、脛に触るるに、「あれ、気味の悪い。」と撮み上げ、裾裏を返して見て、
かれこれ同時に、「血、血、血!……」
「血」「血」「血」と貴婦人方は鸚鵡返し、皆五六尺飛退る。
時次郎は熟と検し、「うむ、心臓に小刀が。……」言懸けて照子を視れば、眦釣って顔色蒼く、唇は戦けり。