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あかいガラスのきゅうでん

赤いガラスの宮殿

小川 未明

「赤い鳥」1929(昭和4)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,930 字 · 10 页

青空文庫

独りものの平三は、正直な人間でありましたが、働きがなく、それに、いたって無欲でありましたから、世間の人々からは、あほうものに見られていました。

「あれは、あほうだ。」と、いわれると、それをうち消すもののないかぎり、いつしか、そのものは、まったくあほうものにされてしまうばかりでなく、当人も、自分で自分をあほうと思いこんでしまうようになるものです。平三も、その一人でありました。

夏のはじめのころであります。

往来を歩いていると、日ごろ、顔を知っている、村に住む若夫婦が旅じたくをしてきかかるのに出あいました。男は、なにか大きな荷を背負っています。後から、やさしい若い女房が、手ぬぐいを頭にかぶって、わらじをはいてついてきました。

「どこへいくんだな。」と、平三は、びっくりした顔をしてたずねました。

「旅へ出かけるだよ。この村にいたっていいことはない。旅へいってうんと働いてくるだ。平さんも、いかないか。」

「いつ、この村へ帰るだ。」

「それは、わからない。」

「旅って、どこだな。そこへさえいけばどんないいことがあるけい。」

「それは、広いだ。どこって、おちつく先は、わからないが、たんといいことがあると聞いているから出かけるだよ。