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あかいひめとくろいおうじ

赤い姫と黒い皇子

小川 未明

「童話」1922(大正11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,237 字 · 9 页

青空文庫

その後からつづいて、幾つかの乱れたひづめの音が、入り混じって聞こえてきました。みんなは、息を潜めて黙って、その音に耳を傾けたのです。すると、ひづめの音は、だんだんあちらに遠ざかっていきました。

しばらくすると、こんどは、あちらから、こちらへ、カッポ、カッポと鳴り近づくひづめの音が聞こえました。つづいて入り乱れた幾つもの音を聞いたのでありました。あちらにお姫さまがいないので、彼らはこちらにきて探すもののように思われました。

「お姫さまは、昨夜、海の中に沈んでしまわれたのだもの。いくら探したって見つかるはずがない。」と、人々は思っていました。

また、ひづめの音が聞こえました。こんどは、またこちらから、あちらへもどっていくのです。

「姫は、どこへいったのじゃ。」と、叫ぶ声が、闇の中でしました。

やがて、そのひづめの音が、聞こえなくなると、後には、夜風の空を渡る音がかすかにしました。しかしこうして、ひづめの音は、夜中、家々の前をいくたびも往来したのであります。そして、夜明けごろに、この一隊は、海の方を指して、走っていきました。人々は、その夜は眠らずに、耳を澄まして、このひづめの音を聞いていました。