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あかいて

赤い手

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,057 字 · 21 页

青空文庫

だけど若しマシュースが来ると困るから、打合せだけはして置きましょうよ。妾は何と云ったらいいの? さあ元気を出して――もう直きに此処へ来ることよ」

「まあ、いいさ。俺には考えがある――」と彼は云った「マシュースは俺が巧くやるよ。兎に角もう一杯ついでくれ。奴が変にからんで来たって、俺にぁ――」

その時扉を叩く音がしたのでスパイダーは言葉を途切らせた。彼は坐勢を正し昂奮った神経を静めようとした。そして漸くのことで平静に返った時、サディの開いた扉からマシュース探偵が這入って来た。

「よう、スパイダー。丁度前を通り掛ったから、少しお喋りしようと思って寄ったよ」

マシュースは自分で椅子を引寄せると悠々とパイプに煙草をつめ眼尻に皺をよせてにっと笑って見せた。

スパイダーは濛々たる紫煙の間から探偵を見詰めて神経質に巻煙草を吹かしていた。そして苦虫を噛みつぶした様な顔をして黙り込んでいた。

「マッチはないかね。このパイプはほんとにマッチ喰いだ」マシュースは然う云いながらも周囲の物に鋭く眼を働かせていた。そしてスパイダーが渋々差出したマッチを受取ると、

「今夜は莫迦に御機嫌が悪いじゃないか。