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あかいて
赤い手
国枝 史郎
「探偵」1931(昭和6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,057 字 · 21 页
彼は全身を緊張させて、その音を確かめようと耳をそばだてた。再び忍び足のような音がぼんやりと聞えて来た。彼の醜悪な容貌は恐しい事を予想しているらしく妙に強張った。そして音を立てない様に袋を床に置くと突然電燈を消してしまった。室が真暗になるとスパイダーは元気付いて来た。此の際誰か扉口から入って来るとすれば場所は彼の方が遥かに有利だったから。
足音は又聞えた。彼の顳は動悸を打ち出した。彼は混乱した頭を敏捷に働かして、何処で失策をやったか夕方からの行動をじっくり考えて見た。それにしてもウッドワードは未だ帰らない筈だ。然し何者か扉に近づいてくる。
彼は何とかしなければならなかった。けれど足音は彼が今来た道筋を辿って来る以上、後退は殆んど不可能に等しかった。然かも出口としては、その扉以外にない。残る手段は――彼は衣嚢から棍棒を取出した。
そして凝っと待っていた。時間の経過は実に遅く彼には何時間か経った様な気がした――と、その時扉がそっと開かれた。スパイダーは棍棒を握りしめ、扉の近くに身を寄せて息を凝らしていた。やがて丈の低い、ずんぐりした人影が室の中へこっそり這入って来た。