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あかいかしゃ
赤い貨車
宮本 百合子
「改造」1928(昭和3)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页
「黙ってて! 後生だから」
ナースチャはさっきからなんとも云えない心持なのであった。伯母の頭の上にある真鍮の吊ランプも、夜の台所の匂いも、なにもかにもふだんと変らないのに、自分だけが行ってしまって帰らないというのは、なんと妙な、切ない心持であろう。ナースチャは、暗いうちでさらにシューラの脛を抱きしめ自分の額を押しつけた。この世で、これだけしか抱けるものはなかった。
その心持がシューラに通じた。シューラは、ナースチャの髪をなで、むせばないように口をあけて泣いた。
隣室では、ランプの光がさし、はさみの音がする。ランプの光はぼろのかたまりのようにナースチャをかげにおき、シューラの金髪の一部分だけをせまく射るように照らしつづけた。
六
ソフィヤ村のナーシェンカは市に出た。
ナースチャは電車にのっている。電車は二台連結だ。ナースチャはひろげた脚の間に麻袋をおき、あとの車にのっている。アンナ・リヴォーヴナはナースチャの隣にかけ、かばんをそばにおき、その上に肱をついて眼をつぶっている。電車は午前九時すぎのモスクワを行くのだ。ナースチャは朝日のあたる窓に向って、顔をしかめながら外をみた。