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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

「お砂糖もいるよ」

と云った。主人のパーヴェル・パヴロヴィッチがその前に台所へ顔を出して、

「ナースチャ、コーヒーおくれ、苦くしちゃいかんぜ」

と云って直ぐ引っこんだ。夜の間にナースチャにかけられた言葉のそれが全部である。

膝の間にはさんでいた片方の手をのばして、ナースチャはかたわらの棚の下をさぐった。いろんな紙屑のなかから、手当り次第に引っぱり出してみると、パーヴェル・パヴロヴィッチが役所から持って来た製図の切れ端であった。もう一遍やって見ると、新聞が出た。ナースチャは太い活字をひろって読んだ。パホード・プロチフ・エストラノドノイ・ハルツールイ……これはなんのことだろう。別のところには細かい字がうんと書いてあってカリーニンとかルジュタクとか人の名がある。

再び両手を膝にはさみ、体をゆすり、ナースチャはシューラを恋しく思い出すのであった。寂しい……。明るい……明るい……そして一人ぼっちの台所は寂しい。夜はいつしか進んでナースチャはねむたくなる。大きなあくびをして立ち上り、彼女はギーと板を下し、その上にのって高い棚から掛物をひきずりおろした。

便所で誰かが灯をつける度に、高窓のガラスを越してナースチャの寝顔に光がさした。