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あかいかしゃ
赤い貨車
宮本 百合子
「改造」1928(昭和3)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页
ナースチャは口をあけ、うなりながら眠った。
八
細い肱を蟹のように張って、ナースチャは火のしをかけた。二人寝台用の大敷布はたたむにも、伸すにもナースチャ一人の手にあまった。アンナ・リヴォーヴナが新聞の上へ出して行った木炭は少しだから、火の気の強いうちに、急いでかけてしまわねばならぬ。力がいるのと木炭のガスとでナースチャの顔はほてり、頭痛がした。しかしナースチャは、肱を蟹のように曲げ一生懸命火のしをかける。
ジジーン!
呼鈴がクワルチーラじゅうに響いた。火のしを平ったい金びしゃくにのせ、ナースチャは入口へ行った。
「どなた?」
いきなり開けるなと、ナースチャはきびしく云いつけられているのであった。
「開けて下さい。部屋を見に来たんですから」
それは全然聞きおぼえのない男の声であった。ナースチャは、戸に手をかけたなり怒った声で、
「誰です、そこにいるの?」
と云った。部屋を見る人間がいるなんて、ナースチャは聞かされていなかった。
「心配なさるな、アンナ・リヴォーヴナのクワルチーラでしょう?」
「ええ」
「部屋を拝見に来たんです。開けてくれればいいんです」