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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

戸から燈火が洩れている。ナースチャは、そっとたたいた。

「お入り」

リザ・セミョンノヴナは、まだ着物もぬがず、新聞から切抜をしていた。

「リザ・セミョンノヴナ、ごめんなさい、邪魔して。――わたし、物干場へ行かなけりゃならないんです」

ナースチャは云った。

「でも……こわいんです」

「なぜさ」

「一番てっぺんなんですもの、それに、もう夜で、暗くて」

「アンナ・リヴォーヴナにそうお云い」

「神よ! わたしぶたれます」

リザ・セミョンノヴナは急に両足で立った。

「さ、早く、早く!」

「ああ、ありがたい! リザ・セミョンノヴナ、あなたは本当に」

「いいから鍵とっといで、早く!」

ナースチャがさきに立って階段をのぼって行った。足音が、夜のコンクリートの壁に反響した。小さい夜間電燈が各階の踊場についているだけであった。

「ごらんなさい、リザ・セミョンノヴナ、こわいでしょう、わたし、この間、あっちの建物の翼へ泥棒が入ったって聞いているから、一人じゃ来られないんです」

夜じゅう、借室の下の入口の戸が開いているのは事実であった。木戸口は十二時にしまった。

リザ・セミョンノヴナは、

「なんでもない」