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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
03 むじな長屋
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 页
登は夜具の中で、身をちぢめた。
明くる朝、少し寝すごした登が、おくれた朝食をたべ終るとまもなく、むじな長屋から迎えの者が来た。佐八の容態がおかしいから来てくれ、というのである。去定はすぐにいけと云い、一帖の粉薬を渡して、もしひどく苦しむようだったら、これをのませてやれと云った。
「必要がなかったら持ち帰って、おれの手へ返せ」と去定は云った、「ふつうには使わない薬だから忘れないように気をつけてくれ」
登は支度をしてでかけた。
伝通院の脇までいったとき、横丁から走り出て来た中年の女が、登を見て呼びとめた。養生所の先生かと訊くので、そうだと答えると、子供の病気が悪いから診てもらえないか、と激しく喘ぎながら云った。半年ばかり病んでいるが、溜っている薬礼が払えないために医者が来てくれない、子供はいまにも死にそうにみえるのだ、と訴えるのであった。
――この上衣のおかげだな。
その上衣は、養生所医員だということを示している。薬礼がとどこおっているために医者が来ない、女は家をとびだして来て、その上衣を認めるなり呼びかけたのだ。赤髯か、いいおやじだな、と登は思った。