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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

03 むじな長屋

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 页

青空文庫

考えてみろ、とたんに飲まずにゃあいられなくなるんだから」

佐八が呻き声をあげ、なにか云った。登がすり寄って覗くと、あなたに話がある、としゃがれ声で、囁いた。

「お松さんも、平さんにも帰ってもらって下さい」

登は頷いて、二人にそのことを告げた。

平吉は立たなかった。お松はうちに用もあるからと云って、すぐに帰っていったが、平吉はぐずぐず文句を並べ、しまいにはそこへごろっと寝ころんでしまった。

「そのままにしといて下さい」と佐八が云った、「それで眠ってしまうでしょう、――済みませんが水を一杯いただけませんか」

登は平吉の寝ぐあいを直してやり、それから病人の湯呑を取って、火鉢にかかっている鉄瓶の湯を注ごうとした。しかし佐八は水が欲しいと云った。

「もう、なにを飲んでもいいのじゃありませんか」佐八は弱よわしく微笑した、「どうぞお願いします」

登は勝手へいって水を汲んで来てやった。

「私は貴方が、その上衣を着て下さるようになったので、うれしく思ってました」佐八は水を一と口すすってから云った、「それでまた何十人かの貧乏人が助かることでしょう」

登は来る途中のことを思いだし、おまえの云うとおりだった、と心の中で答えた。